Share

9話 周りを取り囲まれていた!

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-07-07 07:00:44

 あとは……付与だな。とりあえず、【強度上昇】【切れ味上昇】【耐久性上昇】【防汚効果】【洗浄効果】……このあたりを加えてみるか。

 そうして付与スキルを使うと、完成したナイフは淡く輝く異様なオーラを放ち始めた。普段なら、刃こぼれや汚れが気になって実演なんか絶対にしないが――試しに一本、枝を拾って切ってみる。その枝に軽く刃を当てた瞬間、まるで豆腐をなぞったかのように、何の抵抗もなく「スッ……」と切れた。

 ……これ、下手すると元のナイフとは別物になったかもしれない。

 な、なんだこれ……! すごっ! 太い枝も豆腐みたいだなっ! ……あ! でも……これは、やり過ぎだよな……? まな板まで軽く切れちゃう。切れ味を調整して出来上がりかな。

「アリア、アリア〜! えへへ……これ使ってみて?」

 ユウヤが嬉しそうに手渡したナイフを、アリアもまた笑顔で受け取った。受け取るやいなや、手元にあった余った野菜をさっそく試し切りする。

「わ、わわわっ!? なにこれ……!? なにも切っている感じがしない……おもしろ〜いっ! これ、売ったら――……ううん、なんでもないや。すごいね〜♪」

 アリアは興奮したようにナイフをくるくる回し、ちらっと俺の顔を見たあと、少しだけ頬を染めて笑った。やっぱり……アリアは、いろいろと考えて気を使ってくれてるんだな。

「アリアのナイフと、交換する?」

 ユウヤが提案すると、アリアは戸惑った様子を見せた。その小さな眉が、困ったように下がっていた。

「え? ……えっと、わたしのナイフ……刃がボロボロなんだけど……本当に、交換していいの?」

 俺に交換と言われて、気まずそうに悩んでいる様子のAria。

「別にいいよ? 思い入れがないなら交換しようか。もし大事なものなら、作り直してあげる」

 ユウヤは、アリアの気持ちを尊重した。

「うーん……じゃあ、交換がいいな♪ ユウくんのナイフがいい〜。ありがとうっ、ユウくん。大切にするねっ!」

 アリアはそう言って、嬉しそうに俺の差し出したナイフを両手でそっと受け取った。そしてふと、持ち手にあしらわれた小さな花の模様に気づく。

「あ……っ、これ……!」

 一瞬、目を丸くしたアリアは、じっとそのワンポイントを見つめたあと、ぱっと笑顔が花開いたように輝いて――

「ユウくん……この花、わたしの好きなやつだよねっ……!え、これ、ユンファの花……そうなの? わたしのために……?」

 嬉しさがこみ上げたのか、アリアは勢いよく俺の胸に飛び込んできた。その小さな体を、俺の胸にぎゅっと押し付けられた。

「わっ……!」

 驚いた拍子に思わず身体をよろけさせながらも、俺は反射的に彼女を受け止める。距離が近すぎて、顔を合わせるのが恥ずかしい。でも、アリアも同じらしく、頬を真っ赤に染めたまま俺の服の胸元をぎゅっと掴んでいた。

「……だって……こんなの、嬉しすぎるもん……! ユウくん、意外と……やさしい……ずるいくらい……だよぉ……♡」

 その声は小さくて、胸元にこもるように震えていた。俺も何かを言おうとしたけれど、顔の熱さが先にきて何も言えなかった。

 アリアが使っていたナイフを受け取り、俺は木陰へと戻った。作業はもう二度目だ。前回と同じようにナイフと魔石を収納し、同じ要領で丁寧に作り直す。

 昼食は、アリアと世間話を交えながらのんびりと楽しく済ませていた。けれど、ふとした瞬間――張ってある結界の外に、微かな異変を感じ取る。どうやら、周囲を何者かに取り囲まれている……そんな気配がした。

 ただ、圧を感じるほどの強さではない。敵意の気配も、今のところない。人間の可能性もあるし、野良犬の群れか、あるいは低級の魔獣の群れかもしれない。……まあ、強力な魔物が気配を巧妙に抑えている可能性もゼロではないけど。その場合でも、いざとなれば転移魔法で逃げればいいしな。

 それに、現時点では結界に干渉してくる様子もない。破壊の気配も、突破の兆しも感じられない。……静けさの中に忍び寄る気配。警戒は怠らずに、もう少し様子を見てみるか。

「なんか……取り囲まれてるかな……」

 ユウヤが呟くと、アリアは少し不安そうな顔をした。その視線は、結界の張られている方向へと向けられていた。

「え? 大丈夫かなぁ……? 移動する?」

 それを聞いたアリアが、一瞬だけ不安な表情を見せたが、俺が慌てていなかったので、いつものアリアに戻って落ち着いているようだった。

「食事も終わったし、様子を見に行く?」

 ユウヤが提案すると、アリアは少し考えた後、同意した。

「うぅ〜ん……そうだね。ここの場所は良い所だし、また来たいかな。だから様子を見てみよう?」アリアは、何か期待するような表情で俺を見上げた。

 二人で気配を消してこっそりと茂みに隠れ覗くと、ネコ耳の獣人が結界の周りで話し合いをしていた。

「わわわぁ。獣人族だよ……初めて見たぁ……」

 アリアは、興奮したように目を丸くし、小さな声で囁いた。その目は好奇心でいっぱいだった。

「俺も初めて見た。獣人族って凶暴なのかな?」

 ユウヤが尋ねると、アリアは少し考えてから答えた。

「うぅ〜ん……人間と同じで、凶暴な獣人もいるし、友好的な獣人もいるって聞いたよ」

 そりゃそうか……知能があれば、性格も気性も個性があるか。人間は「凶暴なのかな?」と聞いているのと同じだな……。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。   64話 休日を楽しむ

    「じゃあ、最後に試して終わりにしようか」 ユウヤがアリアに声をかけた。「うん。付き合ってくれてありがとっ」 アリアは、感謝の言葉を述べた。当然、最後のも成功し、ベチャと木に張り付いた。朝食を食べ終わり、午前中は家の掃除と洗濯物の山を片付けた。と言っても洗濯は魔法で一瞬でキレイになるが……その後はノータッチで触ると怒られる気がする。後ろからそういう圧を感じる……。「ユウくん、終わった?」 アリアが尋ねると、ユウヤは答えた。「終わったよ」「畳み終わったら、仕舞っておくね」 アリアは、ミーシャに声をかけた。下着を見られるのが恥ずかしいらしく、ミーシャと二人でアリアの部屋で洗濯物を畳に入った。 (さて~やることがなくなったし、外に出て畑仕事でもするかな……こういう生活がしたかったんだよな) 家の外に出ると、敷地内にある畑まで移動した。畑で元気に育つ緑色の薬草から視線を上げると、青空が高く広がり、涼しいそよ風が吹いて木々の葉がキラキラと輝きながら揺れていた。気持ちの良い朝で、久しぶりに休日を感じた。 畑に立ち大きく伸びをして、朝の新鮮な空気を吸い込み、揚げた両腕を下ろすと同時に息を吐き出した。「さぁ、働きますか」 土作りからかな。この拠点に来た頃に落ち葉とか雑草を一箇所に集めて置いたんだよな……野菜くずとかも混ぜ込んであるし。たまに……ズルをして転移で、天地返しもしてたし。 新しく野菜畑を作る場所に、いい感じに出来上がっている腐葉土を、森から持ってきたのを魔法と収納を使い混ぜ込んだ。鶏糞や牛糞も欲しいけど……売ってないしな。臭いもきついし止めておくか。畑仕事中の提案と過去の思い出「ユウくん、お昼は外で食べる?」 アリアが尋ねると、ユウヤは少し驚いた。(ん?外で?この世界には外でご飯を食べる習慣はないと思ったけど?ピクニックとかハイキングは魔物

  • 転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。   63話 久しぶりの休日気分

    「えへへ……♪ また勝っちゃったぁっ!」 ミーシャは、得意げに笑った。ユウヤに抱きつき、その勝利を報告する。「随分と余裕で、勝てるようになってきたな」 ユウヤが言うと、ミーシャは頷いた。「うんっ。あれくらい余裕だよっ。何度も戦ってるしっ」(あのなぁ……Aランクの冒険者パーティが苦戦する場所らしいんだけど?ミーシャは、Fランクにもなっていないんだぞ) それにアリアの方も、色々と覚えたいらしく今回は、魔力弾を封印して風、水、土魔法を色々と試しに使っていた。真剣な表情で魔法を放つアリアの姿は、まさに探求者のそれだった。(うん。アリアの方も、基礎がしっかりしているからアドバイスをすることなく安心して見ていられるな。ん〜アリアはFランクだぞ?このパーティは俺も含めてだけど、おかしいよな) 先に進んだが特に強敵もいなく、大した事のない罠がいくつかあっただけで、財宝を大量に手に入れただけだった。昼夜逆転の修正とアリアの魔法練習ダンジョンから早めに帰って、昼夜逆転しているのを直すために微量の魔法を使い、皆で早めに眠った。最近、定位置となっているリビングのソファーで眠り、早朝に目覚めると、外で物音がするのが聞こえた。結界が張ってあるので不審者や魔物、魔獣は入ってこれないようにしてあるので、扉を開けて確認してみた。外では、アリアが魔力を抑えた魔法で、ウィンドカッターやウォーターカッターを木に向かって放ち、魔法の練習をしていた。アリアは真面目な性格で、昨日の魔法の復習をしているのだろうか。「アリア、おはよー」ユウヤが声をかけると、アリアは振り返り、恥ずかしそうな表情をして慌てていた。「わ、わわっ。ごめんね。うるさかったかな?」「ちょうど、目が覚めて外の空気を吸いに出てきただけだぞ」ユウヤが言うと、アリアは少し安心したように言った。「そっか〜。涼しくて良い朝だね」「そうだなぁ。で、何をしてるんだ?」ユウ

  • 転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。   62話 恐怖の魔物と、無邪気な挑戦者

    「……悲鳴が聞こえたら心配で見るだろ……べ、別に……変なパンツじゃなかったし、可愛かったから問題ないだろ?」 ユウヤは、少しどもりながら答えた。「ある! 恥ずかしい! ユウくんのえっちっ」 アリアはフンッと鼻を鳴らし、プイッと横を向いた。その仕草は、まさに拗ねている子どものようだった。 それをじっと見ていたミーシャが、植物の触手にわざと近づき、捕まっているのが見えた。(はぁ……ミーシャは何がしたいんだ? 食べられてみたいとかか? 面白そうに見えたとか?)「ミーシャ。置いていくぞ〜」 ユウヤが言うと、ミーシャは慌てた。その猫耳がピクッと反応し、大きな瞳が見開かれる。「え? わっ、わぁぁぁ〜。ちょ、ちょっと待って〜えぇぇ〜♪」 足に絡んだツルが、ミーシャを逆さ吊りにして大きく揺らす。その度にミーシャからは、楽しそうな表情と無邪気な笑い声が溢れ、洞窟に響いた。(絶対に遊んでいるよな……しかもパンツ丸見えでも全く気にしていない。それを見ているアリアの方が慌ててあわあわしているし)「アリアちゃん、パンツ見えてるよっ!」 ミーシャがアリアをからかうように言うと、アリアはさらに慌てた。顔を真っ赤にして、ミーシャを睨みつける。「え〜だって、逆さまなんだもんっ」 ミーシャは、きゃっきゃと楽しそうに笑いながら、ユウヤに助けを求めた。「ユウくん、助けて上げて、可哀想だよ」(ん? 可哀想? 誰が?? 自分から捕まりに行って楽しそうにしているのに?) ユウヤは、ミーシャの言葉に心の中でツッコミを入れた。だが、そろそろ本当に食われそうだから、助けるか。 ユウヤは同じようにバリアで覆い、転移で近くに移動させると、ミーシャはガッカリした表情で戻ってきた。ユウヤの腕に抱きつき、上目遣いでしょんぼりとした表情を見せる。「ミーシャ、次は助けないからなぁ&hell

  • 転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。   61話 再びダンジョン

    (あの慎重なアリアも行きたいのか……。ということは、これからダンジョンかぁ。他のダンジョンの事は、知らないだろうから、同じダンジョンで良いだろう)「ミーシャは、アリアの手伝いをしなくて良いのか?」 ユウヤが尋ねると、ミーシャは得意げに言った。小さな胸を張るように、誇らしげに微笑む。「えへへ……お手伝い終わったから来たのーっ♪」 ミーシャが褒めて欲しそうな表情をして、目をキラキラと輝かせて見つめてくる。「そっか、そっか〜。偉いな」 ユウヤの腹の上に乗っているミーシャを、抱き寄せて頭を撫でると嬉しそうな表情をして抱きしめ返してきた。ミーシャの温かい体温が、ユウヤの胸に伝わる。寝起きで体が強張っていたのがミーシャで癒やされて解れ、心も癒やされる。(やっぱり可愛いのは、万能薬で心の癒やしにもなる。それと、可愛いは……正義だともいうしな) そんな事を考えていると、ミーシャがユウヤの頬に頬ずりをして甘えていると、アリアが夕食が出来たと言ってきた。「ご飯できたよ〜」「はーいっ♪」 ミーシャが返事をする前に、頬ずりをし頬にキスをして返事をした。何事もなかったかのようにテーブルについた。(ん……あのキスは、どういう意味なんだか) 夕飯を食べ終わると、二人に以前にプレゼントをした異空間収納のバッグを用意し背負い、ピクニックか遊びに出かけるような楽しみという表情をして待っている。(そんなにダンジョンが面白かったのか?まぁ、ミーシャは急成長をして、面白いように討伐が出来るようになったし。それで戦闘が楽しかったというのは、理解できるけど。アリアは、ずっと魔力を……あ、そっか……でも、魔力を開放というか、全力でってダンジョンじゃ無理だろ?それじゃ何が楽しいんだか)「アリアは、何が楽しくてダンジョンなんだ?戦闘が面白いとか?」 ユウヤが尋ねると、アリアは少し考えた後、にこやかに答えた。その

  • 転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。   60話 遊びに行く感じなの?

    (やっぱり倒すと、名前が広まるのか……。それは、勘弁して欲しい。そんなことは望んでもいないし)「はい。勿論です。いる場所を把握をして、近寄らないようにしようかなって……」 ユウヤは、頷いた。受付嬢の言葉に、真剣な表情で応じる。「そうだったの! てっきり情報を聞いて、討伐に行くのかと思っちゃったわよ……ウフフ。安心したわよ。冒険者って名前を売りたいって人ばかりで……何人も帰ってこなかったのを見ているしね」 受付嬢は悲しい表情でユウヤの顔を見つめてきて、ユウヤの手を握ってきた。その手は、冷たく、過去の悲劇を物語っているようだった。「本当に近づいちゃダメよ! まだ若くて優秀なんだから、いくらでもチャンスも成長もあるんだから。無理をして、自分からキケンに近づく必要はないわよ」「はい。そのつもりはないので、安心して下さい!」「はい。約束ね!」「色々と情報を、ありがとうございました!また来ますね」 ユウヤが感謝を述べると、受付嬢はにこやかに言った。「待っているわよ」 受付嬢のお姉さんにお祝いを言われ、さらに心配までしてもらいご機嫌に帰宅した。(ある意味シャルのおかげで、ギルドのお姉さんと仲良くなれて感謝だな。今日の事を知ると、シャルが悔しがって怒り出す姿が想像できて笑ってしまう)♢帰宅と内なる変化 拠点の近くに転移をしたので、説明が面倒なので笑いを堪えて落ち着いた頃に帰宅した。「ただいまー」「ただいま」と言っても、返事はなかった。それにリビングにも人気がなく、静まり返っていたので焦った。(……あ。そっか二人共寝てるのか……眠そうだったしな。それにしても超高難易度のダンジョンを、意外とラクに攻略ができたな。他のダンジョンも同じような感じだったら、少しガッカリかな……あれ?俺は、何を求めているんだ?平和に

  • 転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。   59話 魔獣の情報

     その時、受付嬢が目を輝かせ、満面の笑みで告げた。「わっ。おめでと! キミ、Cランクに昇格したわよ! これで駆け出しの冒険者を卒業で、通常の冒険者の仲間入りね! 過去最年少での昇格じゃないかしら……すごいわね。それもだけど……Dランクの子というか、人リーダーをやってるパーティ自体が珍しいのよね。ともかくおめでと! これからも頑張ってね! 応援してるわよ♪」 ユウヤは、自身のCランク昇格を告げられ、心からの祝福の言葉を受け取った。(多分……気に入ってくれたのかな?)悪い気はしない。なんだかお姉さんの期待に応えたい気持ちにもなるし、もっと頑張りたいと、ユウヤの胸に新たな決意が湧き上がった。 新しく更新された冒険者証と、ネックレスに付けるスチール製のタグを受け取った。これまで木製だったので収納にしまいっぱなしで放置していたのだが、木製だと少し恥ずかしかったのだ。スチール製なら恥ずかしくはないけれど、錆びたら格好悪いな。まあ、付与魔法で錆びないようにすればいいか。ユウヤは、来るべき冒険に思いを馳せた。ランクの目安SS:ミスリルS:ゴールドA:シルバーB:ブロンズC:スチールD:木製F:無しダンジョンの情報と受付嬢の忠告「あの……聞きたいことがあるんですけど。大丈夫ですか?」 ユウヤが尋ねると、受付嬢はにこやかな笑顔で答えた。「ん〜?今の時間帯は、暇だからいいわよ?彼氏ならいないわよ?」(えーと……ふざけてるのか、真面目に言ってるのか分からない。笑顔で言ってるので真面目に言ってるっぽいけど……どう反応したら?) ユウヤはどう答えていいのか分からず、スルーして聞きたい質問をした。「あの……ダンジョンの事を聞きたくて」 すると受付嬢は少しガッカリした表情を見せたが、質問には答えてくれた。

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status