あとは……付与だな。とりあえず、【強度上昇】【切れ味上昇】【耐久性上昇】【防汚効果】【洗浄効果】……このあたりを加えてみるか。
そうして付与スキルを使うと、完成したナイフは淡く輝く異様なオーラを放ち始めた。普段なら、刃こぼれや汚れが気になって実演なんか絶対にしないが――試しに一本、枝を拾って切ってみる。その枝に軽く刃を当てた瞬間、まるで豆腐をなぞったかのように、何の抵抗もなく「スッ……」と切れた。
……これ、下手すると元のナイフとは別物になったかもしれない。
な、なんだこれ……! すごっ! 太い枝も豆腐みたいだなっ! ……あ! でも……これは、やり過ぎだよな……? まな板まで軽く切れちゃう。切れ味を調整して出来上がりかな。
「アリア、アリア〜! えへへ……これ使ってみて?」
ユウヤが嬉しそうに手渡したナイフを、アリアもまた笑顔で受け取った。受け取るやいなや、手元にあった余った野菜をさっそく試し切りする。
「わ、わわわっ!? なにこれ……!? なにも切っている感じがしない……おもしろ〜いっ! これ、売ったら――……ううん、なんでもないや。すごいね〜♪」
アリアは興奮したようにナイフをくるくる回し、ちらっと俺の顔を見たあと、少しだけ頬を染めて笑った。やっぱり……アリアは、いろいろと考えて気を使ってくれてるんだな。
「アリアのナイフと、交換する?」
ユウヤが提案すると、アリアは戸惑った様子を見せた。その小さな眉が、困ったように下がっていた。
「え? ……えっと、わたしのナイフ……刃がボロボロなんだけど……本当に、交換していいの?」
俺に交換と言われて、気まずそうに悩んでいる様子のAria。
「別にいいよ? 思い入れがないなら交換しようか。もし大事なものなら、作り直してあげる」
ユウヤは、アリアの気持ちを尊重した。
「うーん……じゃあ、交換がいいな♪ ユウくんのナイフがいい〜。ありがとうっ、ユウくん。大切にするねっ!」
アリアはそう言って、嬉しそうに俺の差し出したナイフを両手でそっと受け取った。そしてふと、持ち手にあしらわれた小さな花の模様に気づく。
「あ……っ、これ……!」
一瞬、目を丸くしたアリアは、じっとそのワンポイントを見つめたあと、ぱっと笑顔が花開いたように輝いて――
「ユウくん……この花、わたしの好きなやつだよねっ……!え、これ、ユンファの花……そうなの? わたしのために……?」
嬉しさがこみ上げたのか、アリアは勢いよく俺の胸に飛び込んできた。その小さな体を、俺の胸にぎゅっと押し付けられた。
「わっ……!」
驚いた拍子に思わず身体をよろけさせながらも、俺は反射的に彼女を受け止める。距離が近すぎて、顔を合わせるのが恥ずかしい。でも、アリアも同じらしく、頬を真っ赤に染めたまま俺の服の胸元をぎゅっと掴んでいた。
「……だって……こんなの、嬉しすぎるもん……! ユウくん、意外と……やさしい……ずるいくらい……だよぉ……♡」
その声は小さくて、胸元にこもるように震えていた。俺も何かを言おうとしたけれど、顔の熱さが先にきて何も言えなかった。
アリアが使っていたナイフを受け取り、俺は木陰へと戻った。作業はもう二度目だ。前回と同じようにナイフと魔石を収納し、同じ要領で丁寧に作り直す。
昼食は、アリアと世間話を交えながらのんびりと楽しく済ませていた。けれど、ふとした瞬間――張ってある結界の外に、微かな異変を感じ取る。どうやら、周囲を何者かに取り囲まれている……そんな気配がした。
ただ、圧を感じるほどの強さではない。敵意の気配も、今のところない。人間の可能性もあるし、野良犬の群れか、あるいは低級の魔獣の群れかもしれない。……まあ、強力な魔物が気配を巧妙に抑えている可能性もゼロではないけど。その場合でも、いざとなれば転移魔法で逃げればいいしな。
それに、現時点では結界に干渉してくる様子もない。破壊の気配も、突破の兆しも感じられない。……静けさの中に忍び寄る気配。警戒は怠らずに、もう少し様子を見てみるか。
「なんか……取り囲まれてるかな……」
ユウヤが呟くと、アリアは少し不安そうな顔をした。その視線は、結界の張られている方向へと向けられていた。
「え? 大丈夫かなぁ……? 移動する?」
それを聞いたアリアが、一瞬だけ不安な表情を見せたが、俺が慌てていなかったので、いつものアリアに戻って落ち着いているようだった。
「食事も終わったし、様子を見に行く?」
ユウヤが提案すると、アリアは少し考えた後、同意した。
「うぅ〜ん……そうだね。ここの場所は良い所だし、また来たいかな。だから様子を見てみよう?」アリアは、何か期待するような表情で俺を見上げた。
二人で気配を消してこっそりと茂みに隠れ覗くと、ネコ耳の獣人が結界の周りで話し合いをしていた。
「わわわぁ。獣人族だよ……初めて見たぁ……」
アリアは、興奮したように目を丸くし、小さな声で囁いた。その目は好奇心でいっぱいだった。
「俺も初めて見た。獣人族って凶暴なのかな?」
ユウヤが尋ねると、アリアは少し考えてから答えた。
「うぅ〜ん……人間と同じで、凶暴な獣人もいるし、友好的な獣人もいるって聞いたよ」
そりゃそうか……知能があれば、性格も気性も個性があるか。人間は「凶暴なのかな?」と聞いているのと同じだな……。
ユウヤは、子供たちと少しだけ遊び、遊びが終わると子供たちは満足して帰っていった。家に入ると、アリアが楽しそうに掃除をしていた。鼻歌を歌うような軽やかな動きで、隅々まで綺麗にしている。「あ、悪い……。外で子供たちと遊んでた」 ユウヤが申し訳なさそうに言うと、アリアは笑顔で首を振った。その瞳は、新しい家への愛着でいっぱいだ。「ううん。大丈夫だよ。村の人と仲良くしなきゃだし。この家ね、色々と家具も揃ってるんだよ〜♪」 アリアは、新しい拠点にすっかり心を奪われているようだった。♢新居の夜と隠れた才能「ん?いやぁ……住めって言ってるのか?それで魔獣の討伐を依頼というかお願いする気なのか?良いんだけどさ……」 ユウヤは、長老のあまりにも気前の良い申し出に、思わず目を丸くした。 半信半疑といった表情でアリアの方へ視線を向けると――彼女はすでに目を輝かせ、嬉しそうにしていた。 俺と目が合うや否や、満面の笑みで何度も力強く頷いている。 ……なにをそんなに嬉しそうにしてるんだ?「どうしたの? 嬉しそうだけど??」 ユウヤが問いかけると、アリアは飛び跳ねそうな勢いで答えた。 その声には、隠しきれない喜びがはじけていた。「わたしたちの拠点だよぉっ♪ きょ・て・んっ♪」(あっ……それ、なんかカッコいい……!) その瞬間、ユウヤは思わず納得した。 冒険者には、いくつかのタイプがいる。 たとえば――旅をしながらダンジョンを巡り、宝を探す冒険者たちは、定住せずに宿や野営で夜を明かす。 一方で、村や町の討伐依頼を請け負ったり、護衛・警備の仕事を請け負ったりするタイプの冒険者は、 生活の拠点として家や本部を構えることが多い。 それでアリアは、あんなに目を輝かせていたのか。 “ふたりの拠点”――その響きが、特別に感じられたんだろうな。 納得だよ、うん。「それは
獣人だからと見下していたかもしれない……。依頼を受けた村から貰えた家は、雨風を防げるだけの休める場所ではなくて、ブロック造りの、十分に暮らしていける立派な家だった。しかも村から少し離れた場所で、広い庭付きだった。「村の中心部から離れていますが、空いていて立派な家がこの家しか無いのです。村の中心部にも空き家はありますが……小さな家で少し、いや大分傷んでいまして」 長老は、恐縮したように説明した。「ここが良いです。あの、庭に倉庫を立てても問題ないですか?」 ユウヤは、その家の良さに満足し、すぐに庭の活用方法を考えた。その瞳は、すでに未来の計画で輝いている。「ええ。この土地は、お譲りした土地なのでご自由にお使いください」(お。土地も貰えるんだ? 倉庫と薬草を育てられるかな?森に近い場所に植えてみようかな。その他は野菜かな?) ユウヤは、新しい生活への期待に胸を膨らませた。「ありがとうございます」「ありがと〜♪」 アリアも満面の笑みで、感謝を伝えた。その声は弾んでいて、本当に嬉しいのが伝わってくる。 こんなに、すんなりと村に入れちゃって良いのか? 結界で寄せ付けないようにしていた人間なのに? ユウヤは、少しばかり疑問を感じ長老に尋ねた。「あの〜俺たちは人間なんですけど? すんなりと信じちゃって良いんですか?」 長老は、ユウヤの疑問に穏やかに答えた。その表情は、一切の疑念を抱いていないようだった。「儂には、害意のある者。ない者。が分かるスキルがありますので問題ないです。同じスキルを持っている者も同じ意見でした」(やっぱりそうか……じゃなきゃ、得体の知れない危険な者がいるかもしれない場所に、子供を連れて来るわけがないか。) ユウヤは納得し、次の話題に移った。「討伐は、明日からでも良いですか?」「ええ。問題ないです。この森は広大で殲滅は不可能なので、定期的に討伐を行ってくだされば助かります」
「そうなんだぁ。わぁ〜じゃあ、わたしも参加できるね〜ギルドの依頼の時も参加するつもりだけど……」(ん? 珍しく積極的というか……気を使ってる感じじゃないな。)「参加は良いけど……いつものアリアじゃないね? 魔物や魔獣の討伐に参加してくれるのは助かるけどさ」 ユウヤが問いかけると、アリアは少し照れたように頬を染めた。視線をわずかに逸らし、指先で服の裾をいじる。「だって……せっかくユウくんと同じパーティになったのに、別々に討伐とか薬草を採集って寂しいもんっ」 その言葉に、ユウヤは納得した。アリアの想いを知り、心が温かくなる。「うん。一緒に討伐に行っても問題ないでしょ……冒険者になる前に低級の魔物をたくさん討伐して攻撃も受けなかったし、魔力切れにもならなかったしなあ」 ミーシャも自信満々に、ユウヤの言葉に同意した。「うん。ありがと♪」 アリアは嬉しそうに微笑んだ。その笑顔は、花が咲いたように明るい。 ユウヤは、心配そうに見つめる長老たちの方を向き直し、依頼として受けると話した。「俺たちは冒険者で、魔物と魔獣の討伐依頼として引き受けようと思います」 ユウヤがそう告げると、長老の顔色が悪くなり、後ろについてきていた者もオロオロとして、二人で顔を見合わせて困った表情になっていた。その様子に、ユウヤは少し呆れる。(まあ……元々は勝手に二人で魔物討伐をして帰るつもりだったので、報酬は元々無かったわけだし。でも魔獣討伐を無報酬で頼むつもりだったんだ?) ユウヤは、彼らの困惑を察し、口を開いた。「まあ、そうですね。でも……その感じは、支払いが難しいみたいですね」「すみません。小さな村でして、擬態スキルを持っている者が人間に擬態して野菜や金物を近くの人間の村まで売りに行って人間のお金を得て、調味料や雑貨、薬を買って、余ったお金を僅かに貯めてあるだけでして」 長老は申し訳なさそうに説明した。その声には、村の窮状がにじみ出ていた。「そうですか。まあ……報酬は必要ないので、ちょこちょことここに遊びに来て薬
♢獣人族との接触と意外な依頼「なあ……どうしよう? 話してみる?」 俺がアリアに、小声で尋ねた。目の前には、警戒しながらも様子を窺う獣人族の集団。その中には、小さな子供の姿も見える。 アリアは少し考えて、慎重な口調で答えた。その視線は、群れの奥にいる子供たちへと向けられている。「え? うぅ~ん……ちっちゃな子もいるし、戦闘って感じじゃなさそうだし……話してみても良いよ?」 その言葉に、俺は軽く頷いた。「敵意を感じたら、すぐに転移をするからな」「はぁーいっ」 ミーシャは、俺を信じているのか、にこっと笑って明るく返事をする。 ぱたぱたと駆け寄ってくると、俺の袖をきゅっと掴んできた。 ――緊張感が少しだけ和らぐ。 それでも気を引き締めながら、自分たちにバリアを展開し、周囲に張っていた結界を慎重に解除していく。 そして、ゆっくりと茂みを抜け、目の前にいる獣人たちへと歩みを進めた。「そう言えばさ、今更なんだけど……獣人と話し通じるのかな……?」 歩きながら、俺はふと疑問に思ったことを口にした。アリアがどんな反応をするか、そっと横目で窺う。「え? わたしも分からないよ〜どうしよ??」 アリアでも知らないか……。言葉が通じなかったらジェスチャーか?俺たちが歩いて向かうと、獣人たちの中から代表者らしき、獣人の長老のような村長を先頭に、3人を従え近づいてきた。そして、長老が先に話しかけてきた。「これは、驚いた。人間の方ですか……?」(おっ!言葉が分かるぞ。それに敵対心もなさそうだな……良かった。) 俺は内心で安堵し、尋ねた。「どうしたのですか?大勢で集まっているみたいですが……」「ええ。それが我々の住む森に結界を張ってあったのですが
あとは……付与だな。とりあえず、【強度上昇】【切れ味上昇】【耐久性上昇】【防汚効果】【洗浄効果】……このあたりを加えてみるか。 そうして付与スキルを使うと、完成したナイフは淡く輝く異様なオーラを放ち始めた。普段なら、刃こぼれや汚れが気になって実演なんか絶対にしないが――試しに一本、枝を拾って切ってみる。その枝に軽く刃を当てた瞬間、まるで豆腐をなぞったかのように、何の抵抗もなく「スッ……」と切れた。 ……これ、下手すると元のナイフとは別物になったかもしれない。 な、なんだこれ……! すごっ! 太い枝も豆腐みたいだなっ! ……あ! でも……これは、やり過ぎだよな……? まな板まで軽く切れちゃう。切れ味を調整して出来上がりかな。「アリア、アリア〜! えへへ……これ使ってみて?」 ユウヤが嬉しそうに手渡したナイフを、アリアもまた笑顔で受け取った。受け取るやいなや、手元にあった余った野菜をさっそく試し切りする。「わ、わわわっ!? なにこれ……!? なにも切っている感じがしない……おもしろ〜いっ! これ、売ったら――……ううん、なんでもないや。すごいね〜♪」 アリアは興奮したようにナイフをくるくる回し、ちらっと俺の顔を見たあと、少しだけ頬を染めて笑った。やっぱり……アリアは、いろいろと考えて気を使ってくれてるんだな。「アリアのナイフと、交換する?」 ユウヤが提案すると、アリアは戸惑った様子を見せた。その小さな眉が、困ったように下がっていた。「え? ……えっと、わたしのナイフ……刃がボロボロなんだけど……本当に、交換していいの?」 俺に交換と言われて、気まずそ
♢無自覚な優しさと新たな出会い「アリアもすごいだろ。無詠唱だしさぁー」 そう言う俺に、アリアは少し困ったように返した。その瞳には、穏やかな光が宿っていた。「え? あぁ……うん? ユウくんも、同じのを使えるじゃない♪」 詳しく聞きたかったけれど、俺も隠し事をしているのでアリアが深く聞いてこないし、俺も聞くのをやめておいた。俺も色々と聞かれたくなかったからだ。「まあなあ〜。そろそろ……昼食の準備をするかぁ〜」「そうだねっ」アリアはにこっと笑い、軽やかに頷いた。 俺が倒した獣の肉の解体をしていると、二人でお金を出し合って買ってきた野菜を、アリアが手際よく下準備してくれた。アリアが調理してくれるので、俺は倒した獣の解体の続きをしていた。 猛獣は種類によって売れる部位が異なるが、たいていは牙、爪、毛皮が基本だ。ほかにも薬の材料になる内臓もあるらしいが……俺はそこまで詳しくない。もったいないとは思いつつも、内臓はすべて転移魔法で処分し、地中に埋めておいた。「次からは、この肉は売って野菜を買うお金と、自分たちが食べる分として取っておこうか?」 ユウヤがそう提案すると、アリアは少し心配そうな表情を浮かべて、俺の顔をそっと覗き込んできた。「……いいの? ユウくんが倒したんだし、それってユウくんのお小遣いになるはずじゃないの?」 別に、俺が欲しい物っていっても、たいていのものはスキルでどうにかなるし、 お金を出してまで手に入れたいものは、正直あまり思いつかない。 せいぜい――食材とか、甘いデザートくらいだろうか。 でもそれだって、パーティ資金として肉を売った分で十分まかなえる。 それに、魔石を売って得た報酬もかなりの額がある。 ……正直、お小遣いはもう充分すぎるほど持っている。「お小遣いには困ってないし、俺は大丈夫かな。……アリアが倒した猛獣は、アリアのお小遣いでいいぞ?」「えぇ